ネタバレ注意2

その後、ファルもひたぎも主人公に対してカミングアウトします。
しかも告白と同時に、偽っていたことをも告白するというところまで共通して。

ファルはクリスの音色に恋をし、またクリス本人にも恋をしてしまいました。
彼女は恋と夢を天秤に掛け、歌手という夢を選びます。
が、恋も簡単には捨てず、告白したことにより主人公に選ばせるのです。

「そんな私を好きで居てくれるのか」と。

これは彼女が紡ぎだした二重の回答でした。
何故ならば彼女自身が抱える問題として、
自分だけでプロになれるのかどうかということに加え、
実は「手段を選ばずに生きてきた人生」に対する負い目もあったからです。

プロになるためにはファルは卒業試験でいい成績を残す必要がありました。
そのために悲しみが高まれば高まるほど良い音色を出すクリスに
偽っていた事実を知らせることでショックを与える目的があったのでしょう。
ですが、それだけでなく彼女にはそんな彼女を全肯定してくれる存在が必要でした。
彼女の行動原理は非常に純粋で、夢のために手段を選んできていませんが、
不幸なことにその行動を歪だと思う感性も持ち合わせてしまった。
アーシノですら気付いているように、
彼女は自らを薄汚れた存在であると認識してしまっているのです。
純粋な行動動機は正の感情で動いていても、
彼女が精神的に孤独である限り、結局は肯定しきれない。
自らは正、クリスが負だったはずが自らも負、クリスも負になってしまう。
だからこそ、彼女は肯定してくれる存在を求めてその回答を相手に託したのでしょう。
それは一種の甘えなのならば、たった一度だけの甘えであったに違いありません。

結果的にクリスはファルを選び、ファルはクリスを手に入れます。
音楽のパートナーとして、そして精神的な支えとして。

そして、甘えるのではなく自らの力で彼を自らに縛り付けるのです。
彼の居る場所は最早他のどこでもなく自分の傍だけなのだと。
それは「昔の恋人の死」という現実を見せ付けてでも。